人工視覚まとめ

 
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かぼちゃ
かぼちゃ。特許翻訳者を目指すパート主婦。 東海地方在住、39歳。 家族構成:夫、子ども(9歳)、子ども(1歳)。 レバレッジ特許翻訳講座第7期生。自己流の勉強方法を経て特許翻訳に参入するも痛い目を見て撤退。その後化学・物理を基礎からやり直し、今度こそプロとして通用するレベルで参入すべく準備中。

約2週間、人工視覚について調べてきました。ここまで調べたことをまとめてみます。

人工視覚とは、失った視覚を再生する技術です。動物(哺乳類)は、角膜を通過して網膜に到達した光を視細胞(錐体細胞・桿体細胞)で電気刺激に変換し、視神経を介して脳に送っています。網膜色素変性や加齢黄斑変性などの疾患により網膜の視細胞が機能しない状態になった場合に、この部位をバイパスして視神経を直接興奮させることによって視覚を再生する技術が世界中で研究されています。

電極アレイ型

眼球に電極アレイを埋設する方法です。患者は網膜上/下もしくは強膜-脈絡膜間に微小な電極アレイを埋め込みます。そしてCCDカメラを取り付けたバイザーを装着し、そのカメラの画像を電気信号に変換して電極アレイに送信し、対応する部位の視神経を興奮させて視覚を再生しようとするものです。

アメリカではSecondSight社のアーガスⅡという製品がFDAの認証を取得しています。

https://gigazine.net/news/20130218-bionic-eye-argus2/
https://gigazine.net/news/20130218-bionic-eye-argus2/

日本では、2001年に大阪大学、奈良先端大学、九州大学、名古屋大学、杏林大学、(株)ニデックからなるコンソーシアムが組織され、開発を続けています。今回はこちらの(株)ニデックが出願人に含まれる特許を読んできました。

基本的な構成は、カメラ、電源、送信手段からなる体外デバイスと、受信手段、内部デバイス(信号抽出・形成・送信機能)、電極アレイからなる体内デバイスの2つです。

(株)ニデックHPより

海外の方式では網膜上もしくは下に電極アレイを埋め込むため、網膜表面のカーブに沿わせることや手術が困難という課題がありました。また、網膜の正常機能している部位を損傷するリスクも指摘されています。一方、日本のコンソーシアムが開発しているタイプ(STS方式)では、電極アレイは網膜の外側である強膜-脈絡膜間に埋め込むため、上記のような課題が解決されています。手術も既存の強膜開窓術で可能とのこと。

この2週間で読めた特許は全出願のわずか1/4ほどでしたが(※最初の調査で出てきた件数より増えました)、半導体技術を使って微小電極アレイを製造する方法や、電極の表面積増大方法、体内デバイスへの体液の侵襲を避けるハーメチックシールなど、構成要素の一つ一つについて様々な特許が出願されていました。

ところで、こうしてブログを書いている今も普通にモニタを見ているわけですが、我々は無意識に様々な動きをしています。注視したい部分が正面にくるよう眼球を動かしたり、疲れたら目を閉じたり・・・。また、眼球は常に細かく動いています。目にはアダプテーションという機能があり、同じ部位に刺激を与え続けるとその部分の視覚が消失してしまうため、眼球を細かく動かすことで刺激部位を少しずつずらして対応しているのです。これを固視微動といいます。

人工視覚では、これらの無意識にやっている動きへの対応も求められます。電極アレイ方式では、カメラの映像が常に脳に送り続けられるため、まぶたを閉じて休むということができません。それに、「もう少し右部分をもっとよく見たい」と思ったら、首ごと動かして対象を視野の中心に持ってくる必要があります。また、固視微動のような微小な動きを画像に加えてやらなければ、アダプテーションによって視界が消失してしまいます。(株)ニデックの特許では、まぶたの開閉で出力強度を調節したり、眼球の動きをセンサで感知して刺激部位を調節したりといった技術が出願されていました。我々が普段やっていることを人工的に再現しようとすると、こんなにも複雑な技術が必要になるのかと、改めて人体の精巧さに驚かされました。臨床試験が進められていく中で、今後も様々な課題が出てくることが予想されますが、一番の課題は電極密度になってくるかと思われます。再生される視覚の画素数は電極アレイの電極密度に依存するため、この電極密度をどこまで上げられるかに注目していきたいと思います。

色素結合薄膜型(OURePTM

岡山大学が開発した人工網膜で、光電変換色素を結合させたポリエチレンフィルムを網膜下に埋め込みます。光電変換色素とは感光色素の一種で、光を受けて電気双極子を生じ変位電流を出力するもので、色素増感型の太陽電池にも使用されています。この方式のメリットは電源が不要なこと。さらに色素の粒子単位で電気刺激することが可能なため網膜本来の解像度が期待できます。また薄くて柔らかいため、大面積のものを丸めて注射器で眼内に挿入できます。フィルムの耐久性が問題になりそうですが、標準的な局所麻酔の硝子体手術で施術可能なので、交換も容易と思われます。こちらは特許読みなどの調査があまり出来ておらず、実際問題としてどのような課題があるのか把握できていませんが、電極アレイ方式の課題を解決してくれる技術になりそうです。

岡山大学HPより

その他にiPS細胞を用いた網膜再生の研究も進められており、どの技術が一番先に保険適用レベルで実用化されるのか、とても楽しみです。

ここまで特許読みをしてきましたが、このまとめを持って人工視覚についての情報収集はいったん終了します。うっかり「特許を全部読むぞ」と目標を立ててしまったのですが、今のステージの自分がそれをすることにあまり意味はなく、それよりまず化学の勉強を終わらせることの方が優先でした。とはいえ先のステージですることを先取りして少しやってみたことで、いろいろな収穫がありました。眼の構造、視覚の仕組みの理解、人工視覚技術の知識と研究者のリストはもちろん、どの知識が不足しているか、この先どう攻めていったら良いか決めることができ、自分の特許調査技術への課題も抽出できました。

人工視覚は大変興味深い技術ですので、いつかこの分野を専門と言えるようになりたいと思っています。いま優先すべきことをやりつつ、定期的に情報収集はしていきたいと思います。

人工視覚についてのマインドマップ
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かぼちゃ。特許翻訳者を目指すパート主婦。 東海地方在住、39歳。 家族構成:夫、子ども(9歳)、子ども(1歳)。 レバレッジ特許翻訳講座第7期生。自己流の勉強方法を経て特許翻訳に参入するも痛い目を見て撤退。その後化学・物理を基礎からやり直し、今度こそプロとして通用するレベルで参入すべく準備中。

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